Reactスライダーライブラリ比較：rc-slider vs react-input-slider vs react-slider

Reactアプリで数値入力UIを実装する際、スライダーコンポーネントはよく使われるパターンです。しかし「スライダー」と一言で言っても、ライブラリごとに設計思想や実装の質が大きく異なります。本稿では、rc-slider、react-input-slider、react-slider の3つを、実際の開発現場で直面する技術的課題を中心に比較します。

⚠️ メンテナンス状況の確認：react-input-slider は使用を避けるべき

まず重要な前提として、react-input-slider は 公式npmページおよびGitHubリポジトリにおいて、近年の更新が確認できず、非推奨（deprecated）と見なすべき状態 です。npmには明示的なdeprecation警告はありませんが、最後のリリースは2018年以前であり、TypeScript定義や現代的なReactライフサイクルへの対応が不十分です。新規プロジェクトでこのパッケージを採用することは、将来的なセキュリティリスクや互換性問題を招く可能性があるため、強く推奨されません。

以下では、現実的に選択肢となる rc-slider と react-slider を中心に比較します。

🎛️ 基本的な使い方とAPI設計

rc-slider: 豊富なpropsで細かい制御が可能

rc-slider はAnt Designの裏側でも使われている信頼性の高い実装で、propsの粒度が非常に細かく設計されています。

import Slider from 'rc-slider';
import 'rc-slider/assets/index.css';

function MySlider() {
  return (
    <Slider
      min={0}
      max={100}
      step={5}
      defaultValue={30}
      onChange={(value) => console.log('Changed:', value)}
      onAfterChange={(value) => console.log('Final value:', value)}
    />
  );
}

react-slider: 直感的なpropsとシンプルな構成

react-slider は最小限のpropsで動作し、初心者にも分かりやすい設計です。

import ReactSlider from 'react-slider';

function MySlider() {
  return (
    <ReactSlider
      min={0}
      max={100}
      step={5}
      defaultValue={30}
      onChange={(value) => console.log('Changed:', value)}
      // onAfterChange は存在しない
    />
  );
}

💡 注：react-input-slider は以下のような古いAPIを持ちますが、新規プロジェクトでは使用しないでください。

// 非推奨：react-input-slider（使用禁止）
import Slider from 'react-input-slider';

function MySlider() {
  return <Slider axis="x" x={50} onChange={({ x }) => console.log(x)} />;
}

📏 範囲選択（Range Slider）の実装

複数の値を同時に選択できる範囲スライダーは、日付フィルターや価格帯選択などでよく使われます。

rc-slider: 専用のRangeコンポーネントを提供

rc-slider は Range コンポーネントを別途エクスポートしており、明確に分かれています。

import { Range } from 'rc-slider';

function PriceRange() {
  return (
    <Range
      min={0}
      max={1000}
      defaultValue={[200, 800]}
      onChange={(values) => console.log('Range:', values)}
    />
  );
}

react-slider: 単一コンポーネントで範囲選択をサポート

react-slider は minValue と maxValue props で範囲選択を有効化します。

import ReactSlider from 'react-slider';

function PriceRange() {
  return (
    <ReactSlider
      min={0}
      max={1000}
      defaultValue={[200, 800]}
      onChange={(values) => console.log('Range:', values)}
      // 内部で配列かどうかを判定
    />
  );
}

🖥️ 方向とレイアウト：縦スライダーの実装

縦方向スライダーは音量調節や特殊なUIで必要になることがあります。

rc-slider: vertical propで明示的に指定

<Slider vertical min={0} max={100} defaultValue={50} />

react-slider: orientation propで制御

<ReactSlider orientation="vertical" min={0} max={100} defaultValue={50} />

♿ アクセシビリティ（ARIA）対応

スクリーンリーダー対応やキーボード操作は、プロダクション品質のUIに必須です。

• rc-slider: 完全なARIA属性（role="slider", aria-valuenow など）を自動出力。キーボード操作（矢印キー、Home/End）を標準でサポート。
• react-slider: 同様にARIA属性を含み、キーボードナビゲーションに対応。ariaLabel や ariaValuetext などのpropsでカスタマイズ可能。
• react-input-slider: ARIA属性のサポートが不完全で、現代的なアクセシビリティ基準を満たしていない可能性が高い。

🎨 カスタムレンダリング：ハンドルやトラックの見た目変更

ブランドガイドラインに合わせて見た目を調整したい場合の柔軟性を比較します。

rc-slider: renderTrack / renderHandle で完全制御

<Slider
  renderTrack={(props, state) => (
    <div {...props} style={{ ...props.style, backgroundColor: '#ccc' }} />
  )}
  renderHandle={(props) => (
    <div {...props} style={{ ...props.style, width: 24, height: 24, borderRadius: '50%' }} />
  )}
/>

react-slider: classNameやstyle propsで部分カスタマイズ

<ReactSlider
  className="horizontal-slider"
  thumbClassName="custom-thumb"
  trackClassName="custom-track"
/>

CSSでスタイルを上書きする方式で、JavaScriptによる動的レンダリングはサポートされていません。

🧪 テストとデバッグのしやすさ

• rc-slider: 各ハンドルやトラックに一意の data-* 属性が付与されており、E2Eテスト（CypressやPlaywright）で簡単に要素を選択可能。
• react-slider: thumbClassName や trackClassName を活用してテストIDを付与できるが、動的クラス名のため少し工夫が必要。
• react-input-slider: テスト向けの属性がなく、DOM構造が不安定なため、テストの保守コストが高くなる。

🔄 状態管理との統合

Reactの状態管理ライブラリ（Redux、Zustand、Context API）と組み合わせる際の考慮点です。

rc-slider: onAfterChange で不要な再レンダリングを抑制

onChange はドラッグ中の毎フレームで呼ばれるため、頻繁な状態更新を避けたい場合に onAfterChange を使うのがベストプラクティスです。

const [value, setValue] = useState(50);

<Slider
  value={value}
  onChange={setValue} // プレビュー用
  onAfterChange={(v) => dispatch(updateValue(v))} // 最終確定値のみ保存
/>

react-slider: onChange のみ提供 — 最適化は自前で

onAfterChange が存在しないため、不要な再レンダリングを防ぐには useRef や debounce を自前で実装する必要があります。

const debouncedUpdate = useRef(debounce((v) => dispatch(updateValue(v)), 300));

<ReactSlider
  value={value}
  onChange={(v) => {
    setValue(v);
    debouncedUpdate.current(v);
  }}
/>

📌 まとめ：どのライブラリを選ぶべきか？

💡 最終的なアドバイス

• 大規模・長期運用プロジェクト → rc-slider を選ぶ。機能性とメンテナンス性のバランスが最良。
• 小〜中規模アプリでシンプルなスライダーが欲しい → react-slider で十分。学習コストが低く、bundle sizeも小さい。
• 既存コードで react-input-slider を使っている場合 → 次のメジャーアップデートで rc-slider または react-slider への移行を計画してください。

スライダーコンポーネントは一見単純に見えますが、アクセシビリティ、パフォーマンス、カスタマイズ性を考慮すると、ライブラリ選びは慎重に行うべきです。あなたのプロジェクトのスケールと要件に合った選択をしましょう。